このブログに幾度となくアレック・ソスについて、(細切れのメモを書いてきた。それぞれのシリーズ(Sleeping by the Mississippi, Niagara, Broken Manualetc.. )一冊の写真集をみれば、それぞれのテーマがわかるのだが、では写真家がその人生において、何を鑑賞者に伝えようとしているかは、それら作品の蓄積があって、遍歴を辿ることで初めて輪郭が現れでてくる。これが同時代に生きて現在進行形で制作する写真家を見ることの楽しみである。 暗室技師をするなどして生計を立てていたアレック・ソスは奨学金を得て、ようやく自分の作品制作を行うことが可能になり3ヶ月の旅をして (複数の写真家を収録した企画の写真集を除いて)初めての写真集 Sleeping by the Mississippi (Steidl 2004)を形にする。この写真は広い注目を集め高い評価を得た。
Sleeping by the Mississippi" はアメリカ人にとって特別な意味をもつミシシッピー川沿いを旅しながら写真を撮り、出来上がったものは同時にアメリカ写真の源流を遡る旅にもなっている。実際写真に被写体として後ろ姿が写っている William Eggleston や、Mitch EpsteinやJoel Sternfeldを想起させる写真、直接的ではないが、それらはアメリカ写真のモダニズム、Walker Evans にも行き着く。 「一枚の写真は誰でも撮れる、本当に素晴らしい写真集として形になったものは偉業となる」とインタビューで述べているように、複数の写真をセレクトし編集することで、それらに物語を語らせることに意義をみいだし、さらに自身の出版社Little Brown Mushroom をベースに写真集の活発な出版活動を行い、現代の写真家の中でもっとも注目を集めるうちの一人となった。
キャリア序盤での作品の質や知名度が充実したものとなり、2010年、地元ミネアポリスのWalker Art Centerでそれまでの活動を回顧する大規模な展示が開催された。またドキュメンタリ映画が作られるなどして、ますますメディアで頻繁に取り上げられよく目にされる人気者となった一方、作品 Broken Manual では 文明との関わりを絶って生活するアメリカの”世捨て人”を 取材しそのようなアメリカにおいての生き方に関心ももって活動している。
上の動画で述べられている最新作の”Songbook”では二年間かけて、アメリカ合衆国ならではの生活や文化、そういった地域の生活は消えつつあるそうだが、それらを元々自身も仕事としてやっていた地方紙の報道写真のように、フラッシュストロボを使ってモノクロで淡々と写真に収めたものだ。その写真はアレック・ソスにとって写真家として処女作となる最初期の作品 "Looking For Love" に似ていて、自身のルーツに大きな一周を経てまた辿り着いた。同じ点にたどり着いたとしても一周を経てたどり着いた自身のルーツは、より示唆に富み豊かな作品になっている。 彼の写真にみられる(翻訳しにくいが)「アメリカ性」(アメリカらしさ,アメリカという態)に加えてBroken Manual, Songbookを通して得られた、「人間と人間の間にあるもの、社会と人間の間にあるもの、断絶と切実に自分以外の誰かを求める気持ち」といったテーマを手にして、今後の作品が楽しみになってきたところである。
ロンドンで写真と写真集の展覧会に際して作られたカタログが”Gathered Leaves”でこれまでだした四冊の本を小型化した複製版である。もともと美術に興味があった彼らしく、デュシャンの持ち運び可能の複製セット"Box in a Valise"を連想させるものである。