5.07.2014

Masako Tomiya 富谷昌子 写真集 [津軽]

畠山直哉氏の「等高線」を連想したが、それとも違う。須田一政氏の写真を連想したが、写っているものがいたって当たり前のように居心地よく存在している。写真家本人にとっておそらく心理的に近い親密な場所、人を撮った写真だと想像されるが、鑑賞者である私がみても写真の中へと視線を向けることを拒まれない。作者にとってそれぞれの写真が意味しているものを察するように促されず、ただ事物が写真になっていてそれをみることができる。一点、レンズ(こちら側)を見ている女性のポートレートがあるが、その写真は一方的に写真を見ている私に視線を返す。この意図はどうだったかと私は疑問に思うところだが、それを差し引いてもいいシリーズ。

写真は”かっこいい””きれい”といった「形容詞」を撮れとアマチュア向けの格言で言われるが、これは形容詞ではなく、津軽という名詞を撮ったもの。小島一郎とも違うし、Robert Adamsとも違う。特別なことをしていないにもかかわらず特別。よかった。

Tsugaru|富谷昌子 Masako Tomiya Portfolio Site
books-Tsugaru|HAKKODA
津軽(富谷昌子) | HAKKODA | IMA ONLINE
TAB Event - Masako Tomiya “Tsugaru”

Amazon.co.jp小島一郎写真集成
What We Bought: The New World: 1970-1974 (Yale University Art Gallery)

5.04.2014

ニァイズ 東京都写真美術館ニュース別冊

漫画は普段ほとんど読まないので「クレムリン」という漫画も知らなかったのだが、東京都写真美術館の広報にある自由な漫画「ニャイズ」。エレベーターが遅かったり、なぜか駅より遠いところに正面玄関があるなど普段誰もが思っている都写美についての知ってる人には知っているネタがざっくばらんに描かれていて面白かった。

ちなみに現在でも単行本を買わなくても東京都写真美術館のウェブサイトからPDFでみることができる、おおらかさも良い。都写美はこのあといくつかの展示のあと、2014年9月24日(水)~2016年8月末まで全面改装予定。展示スペースとは関係のない、ゆったりとられた吹き抜けの無駄なスペースに対して、一階のごちゃごちゃしているところなど改善してまた広く多くの人に愛される美術館になることを期待しています。

 写真美術館ニュース別冊『ニァイズ』が単行本になりました
東京都写真美術館 - 東京都写真美術館ニュース別冊「ニァイズ」 (PDF

Amazon.co.jp : ニァイズ 東京都写真美術館ニュース別冊~『クレムリン』出張版

4.29.2014

Let Us Now Praise Famous Men By Walker Evans

Google BooksWalker Evans"Let Us Now Praise Famous Men"の写真を見ることができる。以下の興味深い評論の参考として。ざっくりいうと FSAプロジェクトの背景と、ウォーカー・エヴァンズの写真家としてのある意志について。こんな評論がもっと多くの人の目に触れるようになると、「写真を撮ること」に加え、「写真を読解すること」の面白さが伝わるのではないだろうか。

写真読解試論 「記録と記憶」ウォーカー・エバンズの一枚の写真を手掛かりに(PDF日高(江口)優

Let Us Now Praise Famous Men - Walker Evans, James Agee - Google Books
Texts (テキストの部分

その他の電子化された書籍のサンプル
Perfect Documents: Walker Evans and African Art, 1935
Walker Evans: American Photographs: Seventy-Fifth Anniversary Edition
Walker Evans: Florida 
Signs 
Walker Evans: The Getty Museum Collection
Walker Evans

Amazon.co.jp : Let Us Now Praise Famous Men
WALKER EVANS (MET)

ニューヨーク・アート・スケッチ―写真の視覚から 小久保 彰

日本人アーティスト 小久保氏が70年代から80年代あたりまでニューヨークで過ごし見聞きした写真にまつわる人や出来事についてのエッセイ。写真史の知識だけではわからない文脈やそれを取り巻く状況を伝える優れたアメリカ写真についての資料。

たとえば13章「アメリカの原風景」では、グラント・ウッドの「アメリカン・ゴシック」というアメリカ人にとっての原風景を呼び起こす絵画のモチーフ(農夫婦)と、その系譜としてのアンセル・アダムス(雄大なアメリカの自然)との呼応。またそれに対する反動、対となるB級映画(断絶・ロージャー・コーマン)とスティーブン・ショア(何気ない日常風景) やウィリアム・エグルストン(メンフィスなど南部アメリカ)は、アダムスとは別のアプローチによるアメリカ人にとっての原風景のあぶり出し。南部で生まれ育ったウィリアム・エグルストンと、ニューヨークから旅して獲得したショアの風景の相違。ショアのMoMAでの個展と同時期に開催されたハドソン・リヴァー派(1800年代初め)とショア(1970年代)を結びつけるアメリカ的風景画(地方主義)の系譜。

その他、ロバート・フランク の「アメリカ人」の世代による受け取る印象の違いや、スーパーリアリズム絵画と写真の間で起こった相互作用。アメリカの活況を呈していた現代美術の写真への影響や、アメリカで起こった潮流が翻訳の誤解によって日本に伝わる様など、これまでなかった著述を橋渡しするものとして大変読み応えがある。ちくま文庫の「アメリカの現代写真」もお勧め。

写真読解試論 「記録と記憶」ウォーカー・エバンズの一枚の写真を手掛かりに(PDF)  日高(江口)優

Amazon.co.jp : ニューヨーク・アート・スケッチ―写真の視覚から
アメリカの現代写真 (ちくま文庫)
現代アメリカ写真を読む―デモクラシーの眺望 (写真叢書)