日本人アーティスト 小久保氏が70年代から80年代あたりまでニューヨークで過ごし見聞きした写真にまつわる人や出来事についてのエッセイ。写真史の知識だけではわからない文脈やそれを取り巻く状況を伝える優れたアメリカ写真についての資料。
たとえば13章「アメリカの原風景」では、グラント・ウッドの「アメリカン・ゴシック」というアメリカ人にとっての原風景を呼び起こす絵画のモチーフ(農夫婦)と、その系譜としてのアンセル・アダムス(雄大なアメリカの自然)との呼応。またそれに対する反動、対となるB級映画(断絶・ロージャー・コーマン)とスティーブン・ショア(何気ない日常風景) やウィリアム・エグルストン(メンフィスなど南部アメリカ)は、アダムスとは別のアプローチによるアメリカ人にとっての原風景のあぶり出し。南部で生まれ育ったウィリアム・エグルストンと、ニューヨークから旅して獲得したショアの風景の相違。ショアのMoMAでの個展と同時期に開催されたハドソン・リヴァー派(1800年代初め)とショア(1970年代)を結びつけるアメリカ的風景画(地方主義)の系譜。
その他、ロバート・フランク の「アメリカ人」の世代による受け取る印象の違いや、スーパーリアリズム絵画と写真の間で起こった相互作用。アメリカの活況を呈していた現代美術の写真への影響や、アメリカで起こった潮流が翻訳の誤解によって日本に伝わる様など、これまでなかった著述を橋渡しするものとして大変読み応えがある。ちくま文庫の「アメリカの現代写真」もお勧め。
写真読解試論 「記録と記憶」ウォーカー・エバンズの一枚の写真を手掛かりに(PDF) 日高(江口)優
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アメリカの現代写真 (ちくま文庫)
現代アメリカ写真を読む―デモクラシーの眺望 (写真叢書)
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