氏の作品を、”写真のための写真”という観点からみてきたし、実際そういった構造を作品の形式に持たせているのだが、この本を読むことで生まれて東京で育ってアメリカに渡って育まれた氏の軸がみえてくる。またさらに雑誌「和楽」という雑誌に連載されたものをまとめたとのことで、「写真家の書いた文章」という括りからの広がり、それは、なんとか消滅の危機を乗り越えながらも多くの人を介して伝えられてきた骨董品や芸能(能)や書籍や歌を通して、明治時代の廃仏毀釈や歴史上の契機に壊されてしてまって現在我々が想像することしかできない太古の文明の姿を妄想している、写真家(芸術家)でありながら、元骨董商であった氏ならではの観点が面白い。
写真に関心があるのならば、丁寧に作品を見ればだいたいわかることですが、大昔の絵師や仏師が残したものを通して日本とはどんな国なんだろうとその分野での知見のある杉本氏の考えを知るには格好の本だと思います。逆に写真というものをあまり知らないでこの本を読むと、杉本氏の術中にはまって作品を見る時にこの本にあるような氏の世界観から逃れられなくなって盲目に氏の作品を崇拝してしまうかも。杉本氏はデュシャンからの影響を述べていることで本人も読者が表徴の裏に幻を見ることを意図して文章を書いたんだろうと勘ぐりたくなるもの。「答えはない。なぜなら問いがないからだ」
読みやすくそれほど難解な文章ではないのでスラスラ読みやすいです。最後の章、表題「苔のむすまで」は語り口の熱が少し上がっていました。
杉本博司『苔のむすまで』|新潮社
写真の履歴 杉本博司『苔のむすまで』青柳恵介
Amazon.co.jp : 苔のむすまで
Rakuten : 苔のむすまで