1.21.2010

Mitchell "Mitch" Epstein (ミッチエプスタイン) "American Power"





Mitchell "Mitch" Epstein (Wikipedia)は1952年生まれのアメリカの写真家。Cooper Union 校に在籍中はゲイリーウィノグランドから写真を学んでいる。

Mitch Epstein Official Web Site

American Power - アメリカの国土でエネルギー(電力)が生産され消費されている在り方を追った、エネルギーに依存して生活するアメリカ人の生活を考察した風景写真のシリーズ。”Family Business”(2000-2003)は、彼の父親が家業であった家具屋を終えた時の写真をまとめたシリーズ。10年間アメリカを離れヴェトナムやインドで写真を撮っていたが、アメリカに戻って制作した "The City" と前記の2つのシリーズで "American Trilogy"(アメリカ三部作)としています。

消費、家族、アメリカ(の性質)といったところがこの写真家のテーマの軸と考えられます。



Recreation ですでに見ごたえのある作品を作っていますが、それに飽き足らなかったのかインドやヴェトナムで制作が続き、写真は美しいのですが深くその文化について洞察がみられるものとは言い難いものでしたが、アメリカ、ニューヨークに戻り、自分の国の文化を一歩引いたところでみて、それが American Power で、テーマ性をもった壮大な作品に結実しています。

W H A T I S A M E R I C A N P O W E R?
彼のコラボレーターである妻のSusan Bell とともに"to inspire and educate people about environmental issues" (環境問題を啓発するために)"What is American Power?" という問いを広く投げかけ、その問いの回答がウェブで公開されています。

Amazon.co.jp : American Power
Mitch Epstein, Recreation: American Photographs 1973-1988
Mitch Epstein: Family Business
Mitch Epstein: State of the Union
Mitch Epstein: Work

Doug DuBois "All the Days and Nights" (Aperture)

(C)Aperture

アメリカの写真家 Doug DuBoisが20年に渡って4X5の大型カメラで撮影した彼の家族の写真。撮影者であるDougの父がいて母がいて、兄弟がいて。父が事故にあって、やがて..といったようにある家族の話で正直苦手なタイプのテーマだが、その写真がとても丁寧な構図と光が選ばれていてフレーム内にあるものに何か見るべきこの家族を知る手がかりがあること、被写体である中年男性、その妻である女性、彼らの子供の顔が物語る様子が平均以上に表現豊かで、それを家族の一員とは思えないくらい抑制して撮影されている。なにか国や文化を越えた普遍性、家族という結びつき、老いや、確実に過ぎて同じように留まらない日常の姿をよく写真に定着している。



Doug Dubois Interview from Georgi Unkovski on Vimeo.


"All the Days and Nights"は当事者であるにも関わらず写真家が外から眺めている(実際、被写体となった父親が新聞に掲載されていることを知って写真家を訴えている)視点を保つことで鑑賞者である我々にも解読するチャンスが開かれている。photo-eyeの2009年のBest Bookに選ばれている。家族を撮ったという直接的な行為であると同時に、イメージが曖昧であるがゆえに家族を撮った写真を議論する際に引き合いに出されるような後世まで残る写真集となるであろう。

Higher Picture : Doug Dubois
Light Work : Store - ...all the days and nights
オフィシャルウェブサイト
Doug Dubois // All the Days and Nights on Vimeo
Doug Dubois by Amy Stein
Photographer Doug DuBois's best shot | Art and design | The Guardian 
Conscientious | Alec Soth in conversation with Doug DuBois

Amazon.co.jp : All the Days and Nights

X-Ray Photographs by Nick Veasey X線で透け透け写真

(C)Goodman Books

最近空港でのセキュリティに全身にX-Rayを投射して危険物をもっていないか検査する装置が話題になりましたが、こちらは写真集の表紙みたまんま、そのままのアイデア一発勝負。人体の場合見え方が予想できてしまうのですが、テキスタイルやモノが描く線は美しいです。大きいものはどう撮影しているのでしょうか。ギミック?

Nick Veasey Official
Amazon.co.jp : X-Ray: See Through the World Around You

1.20.2010

New Topographics ニュー・トポグラフィックスの写真家 LACMA

 
New Topographics from mike m on Vimeo. (LACMAの展覧会のコマーシャル映像)


70年代の写真の重要な潮流のひとつ、ニュー・トポグラフィックスを回顧する New Topographics: Photographs of a Man-Altered Landscape  展がアメリカ・ロサンゼルスのLACMA開かれました。写真史に必ずといってでてくる"New Topographics"というタームですが、ネット上にあるソースを見ながら少し勉強してみたいと思います。

ニューヨークのローチェスターにあるGeorge Eastman HouseでアシスタントキュレーターをしていたWilliam Jenkins がアーティストとコラボレーションという形でキュレーションを担当。9人の写真家が参加した展覧会が "New Topographics"展(1975)です。

8人のアメリカ人- Robert Adams, Lewis Baltz, Joe Deal,Frank Gohlke, Nicholas Nixon, John Schott, Stephen Shore, Henry Wessel Jr.  そしてデュセッルドルフ芸術大学で教えていたドイツ人夫妻 Bernd and Hilla Becher の合計9人のアーティスト/写真家が参加しました。


 
NEW TOPOGRAPHICS: Landscape Photography Then and Now from AIPAD
  上の動画はAIPADというニューヨークのフェアでのレクチャーの様子当時はそれほど注目されずに終わった
展示だったそうです。40分過ぎたくらいから参加したアーティストのひとりFrank Gohlke
ニュートポグラフィックという展示がどういうものだったか当時の状況を話しています。
Frank Gohlke の飄々としながら話される当時現場にいた本人ならではの言葉が印象的です。


この展覧会のポイントを英語のウィキペディアなどオンライン上のソース(不確かな部分もあることを承知の上で)を参照しながらまとめてみました。

1.一人につき10点ずつ出展。大型のヴューカメラを使っている写真家が多くを占めた。
2.キュレーターのWilliam Jenkins がこの展覧会の基調として、1960年代前半に本を使って写真作品を多数制作したアーティスト Edward Ruscha(エドワード・ルシェ)に言及した上で"a problem of style:"(スタイルの問題) "stylistic anonymity"("匿名性"というスタイル)というキーワードを掲げた。

次の一文がこの展覧会の特徴をよく言い表しています。


"それらの(展示された)写真はアーティスティックな”お飾り”(フリル)が取り払われ
トポグラフィックな位相までそぎ落とされ、視覚的な情報を伝えながらも、
だがしかし、美や感情や意見といったものは完全に除外されている。"

"The pictures were stripped of any artistic frills and reduced to an essentially topographic state, conveying substantial amounts of visual information but eschewing entirely the aspects of beauty, emotion and opinion,."


3.アンセル・アダムスやマイナー・ホワイトのように職人的、独学による写真家に対して、教職者や学校で(芸術の)専門教育を受けた(または、のちに受けた)写真家であったこと。
4.特にアダムス、ボルツ、ディール(Joe Deal)の作品に顕著であるように、アメリカの社会に対してアイロニック(皮肉)であり、批評的な視点であること


この展覧会は「写真を使ってこんなことが出来る」というひとつのモデルとなり、コンセプトやスタイルは、 直接的、間接的に現在もなお世界中の数多くの写真家に影響を与えています。(日本では柴田敏雄氏の初期作品にNew Topographicsからの強い影響が見られます。



展覧会に際して作られたカタログは、なかなかの厚さ(3センチ)でハードカバーのしっかりした作り。紙も印刷も素晴らしく、また75年の展覧会当時の資料も豊富。通してみるとアメリカ人アーティスト Edward Ruscha(エドワード・ルシェ)の一連の自作のアートブックに大きく触発されたのは明らかで、現代美術史とあわせてみるとこの出来事の理解が深まります。

また今なぜ ”New Topographics”かというのは、私の主観ですが、これまた一連のベッヒャーの生徒(Düsseldorfer Photoschule もしくは Becher-Schule) アンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトゥルート トーマス・ルフたちが2000年代に大きな注目を集め写真史を引っ張ってきたのに対して、「もともとこれらのアーティストに影響を与えたのはアメリカの展覧会だぜ」とようやくアメリカ人が気付いた、ドイツ人に気付かされて再評価にいたったというのが実際のところかなと考えます。

また日本であまりにも 「ニュー・トポグラフィックス」についての情報が見られなかったのも、それほど70年代当時の展覧会がアメリカでも話題とならず(そもそも写真作品がアートして取引もされていなかった)に、日本にまで情報が入ってこなかったということもあるかもしれませんが、川崎市民ミュージアムに巡回した1992年「ルイス・ボルツ展「法則」」の時にNew Topographics はどのように日本に紹介されたのか興味深いところです。

この回顧展はサンフランシスコ、オーストリア、ドイツ、オランダを終えて、スペインのビルバオに行きます。各地の展覧会で観衆にインスピレーションを与えていることでしょう。

Dwell:New Topographics at the SFMoMA (スライドショウ)
New Topographics: Photos of a Man-Altered Landscape
New Topographics - Wikipedia, the free encyclopedia
New Topographics - LACMA Home
UNFRAMED : Renewed Topographics (ルイスボルツの撮影した建物のその後の様子)

p.a.r.k: Photobook History 世界のフォトブック通史(写真集の本) 
Contemporary Photographers Toward A Social Landscape Nathan Lyon (1966)
To Make It Home: Photographs of the American West ロバート・アダムス
The History of Photography : ボーモントニューホール 写真史テキストの草分け
現代写真論 (晶文社) シャーロット・コットン (著) Charlotte Cotton

Amazon.co.jp : New Topographics
The Prototype Works
The New West: Landscapes Along the Colorado Front Range
Lewis Baltz Works
American Photography (Oxford History of Art)
Joe Deal: Southern California Photographs, 1976-86