4.21.2010

菊池修 写真集 MONSTERと、(日本の)ドキュメンタリ写真のアップデート?

(C)リトルモア

資料があまりなく、写真集を見た上でしか書けませんが、またいつものように自分の都合のいいように解釈したいと思います。今日見たのはこの写真集。

菊池 修 写真集 MONSTER

この写真集はノンフィクション/エッセイにカテゴライズされている。

菊池修氏は、戦場で撮影しているカメラマンとのことですが、このシリーズは戦地ではなく日本にいるHIV陽性のゲイの方に、海外からの仕事の依頼がきっかけとなって出会って撮影するところから始まる。

この写真集には長期に渡って撮影された写真が収録されているため、被写体も時間とともに変わっていくのが見れるが、撮影者である菊池氏の被写体に対する向かい方(距離感ではない)にも変化が生じていることが見て取れる。

それは自分を写真に写しこむようなことがないようでいて、あるような(スナップショットの手癖)未分化の状態から、縦位置のポートレートになると被写体に丸腰で飛び込んでいっているようにも見える。

私自身は、写真という手法においてのドキュメンタリーを特別視もしないし、強い関心があるわけでもない。興味をもった写真がドキュメンタリであってもいいし、なくてもいい。

ただ旧来の例えば70年代頃の公害をテーマとして扱ったドキュメンタリなどにはなんだかいまだに嫌悪感を引きずっているからこそ、この菊池修さんのドキュメンタリを軸とした写真は興味がひくものだった。書店などでぜひ手にとって、買うのがもったいないようであれば図書館にリクエストをだすのもいいかもしれない。

『菊池修写真集 MONSTER』~共に居るということ
写真集の狩人:HIV感染者の7年の実録 「MONSTER」 菊池 修写真集 (リトルモア・3200円+税)

*余談だが千葉日報のこのシリーズのマリオジャコメリの回で”痛撃の念写”というタイトルがつけられているが”念写”といまだに書いてしまうことはいかがなものだろうか。

Mika Ninagawa (Rizzoli) 蜷川実花氏と森山大道氏と村上隆氏のつながり

(C)Rizzoli

蜷川実花氏の写真集がRizzoliから2010年10月に発売予定。森山大道氏、村上隆氏が寄稿と豪華。どのように彼女の作品を見ているのか興味深いところです。

Ninagawa Mika Official Website

人気の高い彼女の作品をポスターや広告など色んなところで目にしますが、体系的にまとまっては見たことがなかったので上のウェブサイトでみているところです。被写体は花、金魚、旅で出会ったものが。コマーシャル作品としては、ポートレートが中心で背景にビビッドな色を置いたものか、もしくは花を敷き詰めてその前に人物を立たせたもの。被写体の選択によって何かの意味を導き出す写真ではなく、あくまでイメージの強度を考え被写体の持つ色を写真のフレームに埋めていくパレットとして利用しているようです。

(C)William Eggleston


同じカラー写真を使う、例えばウィリアムエグルストンの場合は、彼の写真を成立させるため”血のようにべったりした赤”が必要だったと本人も述べているように重要な要素で、それはダイトランスファーというプリント技術が可能にしました。

蜷川氏のトレードマークとなっている海外のソフトドリンクの着色料のような色は、アグファ(今はわかりませんが)のフィルム、クロス現像によるネガの作成によるものとのこと。

写真にとって色がどんな役割を果たすか、エグルストンの場合は、色と南部の地域性、時代性が切っても切り離せないものがあるのに対し、蜷川氏の場合は、写真を見る人に読みを求めないで、ちょうどリゾート地に着いてビーチに出た刹那、体で”浴びる”ことができる直感的な色をみているようです。エグルストンが最近ブログによく出てくるので比較する例として出してきたのですが、それを他のカラー写真で制作するアーティストとの比較を通して考えてみるとまた違って見えるかもしれません。

いずれにしても蜷川氏の作品はあらゆる分析をかすめ、作者自身はプリントと撮影をひとつのものとして制作することに最も大きな関心..そう考えると、それはまさに森山大道氏の作品を指しているのが興味深いです。

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≒(ニアイコール)森山大道 [DVD](NEAR EQUAL MORIYAMA DAIDO)(English subtitle)
芸術闘争論

Japanese Photobook - Ikko Narahara "Fifteen Thousand Nights"奈良原 一高 ”1万5千回の夜の間に”



出版社 mole(モール) (1994/11/3) 厚さ4ミリ、17点の写真が収録の小冊子。”1万5千回の夜”とは氏が写真家になって(1994年で)41年、1万5千回の昼と夜を過ごしてきたことを指している。写真を包括する大きな物語を示唆したタイトルが素晴らしい。




戦後から高度経済成長期、70年代後半と大きく動いていた時代は完全に過去のもので、当時おそらくあったであろう社会とともにあった大きな物語は今や存在しないし、より個人的な世界との接し方に代わった写真が中心となったことをこの写真集を見ていて思うところでした。時代をまたいで撮影された夜の写真を中心に、レントゲン写真や、ロケットの打ち上げのベタ焼きまでレイアウトされたものが構成された写真集です。



Wikipedia:奈良原 一高

Amazon.co.jp : 1万5千回の夜の間に
日本の写真家〈31〉奈良原一高
日本の「自画像」1945~1964
消滅した時間
デュシャン大ガラスと滝口修造シガー・ボックス